本「すばらしい人体」の紹介(1)
「すばらしい人体~あなたの体をめぐる知的冒険~」

山本 健人著 ダイヤモンド社刊

私はこの本を読売新聞の「本 よみうり堂」の書評で知った。その中で「肛門は実弾と空砲を識別して空砲の時のみ排出する」という記載を見て、以前聞いたことがある事を思い出し読んでみようと思った。

著者は外科医で、専門書ではなく読み物として分かりやすく解説している。私は胃と大腸のファイバースコープによる粘膜下層剥離術(ESD)による治療を受けた経験があり、父も兄も大腸がんで亡くなっているので、内臓特に消化器系について知りたいと思っていた事もあり興味があった。

著者はあとがきで、『本書を読み終わった今でも決して「冒険」を終えた状態にあるのではない。ただ、深遠な知の洞窟へ一歩足を踏み入れたに過ぎないのだ。学びによって高まるのは「知識の量」よりむしろ「知識がないことへの自覚」だと私は思う。』と言っている。深い言葉だと思う。

興味を引かれた記事をいくつか抄録して紹介する。

第1章 人体はよくできている
視野は狭い: 目は網膜の中心部分の黄斑と呼ばれる部位の中央の直径約0.3mm位の「中心窩」と呼ばれる部分で見ている。
目の働きをコントロールする力:読んでいる本を揺すると読めないが、頭を揺すった時は読むことが出来る。これは耳の奥にある前庭や半規管が頭の動きを感知し、瞬時に逆方向に眼球を回転させ、視線のブレを防いでいる。カメフラの手振れ補正機能と同じだ。
心臓の拍動の仕組み:この謎が解明されたのは20世紀前半の事である。心拍動は、心臓の壁の中を電気信号が指令として走ることで起こる(「刺激伝導系」)。刺激伝導系は最初に「洞結節」が信号を出し、次に「房室結節」に届きこの後各部へ信号が伝わり筋肉を収縮させている。刺激伝導系のどこかで問題が起きると、指令が上手く伝わらなくなり「不整脈」などが起きる。「房室結節」は発見者の名前をとって「アショフ・田原結節」という。
肺は風船のようなもの:肺事態が自力で大きさを変えるのではなく、横隔膜や胸郭などを構成する筋肉が胸腔の容積を変え、その動きで胸腔内の気圧に合わせ肺が自然に膨らんだりしぼんだりしている。
胃がんの最大の危険因子:がんとは、何らかの遺伝子の変化によって細胞が無秩序に増殖する病気のことだ。近年胃がんの確実な危険因子があきらかになった。ヘリコバクター・ピロリ菌という細菌である。ピロリ菌感染者の胃がんリスクは非感染者の15~20倍以上であり、ピロリ菌感染のない胃がんは1%以下とされている。ピロリ菌が胃の病気の原因である事を自らの人体実験によって証明した発見者のマーシャルとウオーレンはノーベル賞を受賞している。
膵臓の特殊な性質:膵臓は万能な消化液である膵液を作る。この膵液が漏れおなかの中に広がると大問題を引き起こす。なぜなら、体が消化されてしまうからである。血管や臓器を痛め酷い炎症を引き起こす。その上断裂した臓器を再び繋ぎ合わせるのも至難の業である。膵管は細く膵臓も豆腐の様に柔らかいからである。
とてつもない肛門の機能:肛門は、精密機械の様によくできた臓器である。「降りてきたのは個体か液体か気体か」を瞬時に見分け、「気体のときのみ排出する」という高度な選別ができるからだ。「固体と気体が同時に降りてきたときは、「固体を直腸内に残したまま気体のみを出す」という芸当もできる。こうしたシステムを人工的につくるのは不可能であろう。直腸に溜まった便を「無意識に」せき止めておき、好きなときに排出できるという機能だ。成人は大脳皮質からの指令によって外肛門括約筋を収縮させ、排便しようとする無意識の反射に意識的に逆らえるのだ。これらの高機能な筋肉と、極めて繊細なセンサーが私たちの日常生活を支えている。
がんが転移する臓器は偏る:消化器にできたがんの遠隔転移先は、圧倒的に肝臓が多い。多くの臓器があるのに、満遍なく転移が起こらないのは何故だろうか?それは消化器を流れる血液が、その次に向かう主な行き先が肝臓だからだ。

以下次回紹介します。
第2章 人はなぜ病気になるのか
第3章 大発見の医学史
第4章 あなたの知らない健康の常識
第5章 教養としての現代医療


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